• 2024年9月3日
  • 2024年9月5日

尺骨神経(しゃっこつしんけい、Ulnar Nerve)

尺骨神経(しゃっこつしんけい、Ulnar Nerve)は、上肢(腕)における主要な神経の一つであり、感覚と運動の両方にかかわっています。尺骨神経が障害される病気の中に、肘の肘部管で圧迫されることにより生じる肘部管症候群(Cubital Tunnel Syndrome,)や手首のギヨン管で圧迫されるギヨン管症候群(Guyon’s Canal Syndrome)などがあります。

今回は手の主要な神経である尺骨神経を中心に解説します。

手の神経支配

手には主に①正中神経橈骨神経尺骨神経 の3つの神経が首から腕を通って走っており、それぞれ手の感覚や動きに関わる重要な神経です。

手の感覚はこれら3つの神経によって脳に伝えられますが、繊細な作業をするのに必要な手は、部位によって細かく神経支配が分かれています。

  1. 正中神経(Median Nerve)(C5-T1)
    • 母指ー環指橈側半分の掌側
    • 示指中指先端の背側
  2. 橈骨神経(Radial Nerve)(C5-T1)
    • 母指ー環指橈側半分の背側
  3. 尺骨神経(Ulnar Nerve)(C8-T1)
    • 小指と環指尺側ーの掌側+背側

尺骨神経の働き

尺骨神経の走行

尺骨神経は、C8およびT1の脊髄神経根から生じ、**腕神経叢(Brachial Plexus)**の内側束(Medial Cord)から分岐します。

尺骨神経は腕の上部から手の指先に至るまでの間に、運動感覚を支配する神経の枝を出しながら指先まで伸びていきます。近位から順番に

  • 筋枝(Muscular Branches) 
  • 背側枝(Dorsal Cutaneous Branch)
  • 掌側枝(Palmar Cutaneous Branch)
  • 浅枝(Superficial Branch)
  • 深枝(Deep Branch)

と枝分かれしていきます。

やまだカイロプラクティック院・鍼灸院 ホームページより引用

腕神経叢で分岐した尺骨神経は、上腕、肘、前腕、手関節を通り指先にいたります。尺骨神経の走行の構造上、尺骨神経が圧迫されやすい場所として肘部管とギヨン管があります。

  • 肘部管(Cubital Canal) 肘の内側(小指側)にあるトンネル構造で、肘の屈曲や骨性に圧迫されやすい場所。Struthers’ Arcade(上腕筋と内側筋間中隔の間の筋膜性アーチ)、上腕骨内側上顆の後面(尺骨神経溝)滑車上肘靭帯、尺側手根屈筋の尺骨頭と上腕頭を結ぶ繊維性靭帯であるOsborne 靭帯などで特に圧迫されやすい。
  • ギヨン管(Guyon’s canal) 手首の尺側(小指側)に位置する解剖学的なトンネル。豆状骨、有鈎骨、横手根靭帯と掌側手根靭帯によって囲まれている。

尺骨神経障害で代表的な疾患である、肘部管症候群とギヨン管症候群では

  • 肘部管⇒①筋枝のさらに近位側
  • ギヨン管⇒④浅枝の分岐部

に狭窄部位があることが、神経症状に影響を及ぼします。

尺骨神経の感覚

尺骨神経に分布する手の感覚は、下3つの神経によって支配されています。

  • 背側枝(Dorsal Cutaneous Branch):手背の尺側部、小指,環指の背側
  • 掌側枝(Palmar Cutaneous Branch):手掌の尺側の一部
  • 浅枝(Superficial Branch):小指と薬指の掌側

肘部管症候群では②背側枝③掌側枝④浅枝が圧迫されれますが、ギヨン管症候群では④浅枝のみが圧迫されるため、手の甲側のしびれはありません。

ゾウ先生
ゾウ先生

尺骨神経の運動

尺骨神経は以下のような筋肉を支配し、筋肉に命令をします。

  1. 筋枝(Muscular Branches)
    • 尺側手根屈筋(Flexor Carpi Ulnaris) 手関節尺屈での屈曲
    • 深指屈筋(Flexor Digitorum Profundus) 第4.5指のDIPの屈曲
  2. 深枝(Deep Branch)
    • 小指球筋群(Hypothenar Muscles)
      • 小指外転筋 (Abductor digiti minimi) 小指の外転
      • 短小指屈筋 (Flexor digiti minimi brevis) 小指のMP関節の屈曲
      • 小指対立筋 (Opponens digiti minimi) 母指との小指対立運動
    • 骨間筋(Interossei Muscles)
      • 背側骨間筋 第2-4指の外転
      • 掌側骨間筋 中指に向かって内転
    • 第3.4虫様筋(3rd and 4th Lumbricals)
    • 母指内転筋(Adductor Pollicis)母指の内転

前述のとおり尺骨神経は①筋枝(Muscular Branche) 背側枝(Dorsal Cutaneous Branch)掌側枝(Palmar Cutaneous Branch)浅枝(Superficial Branch)深枝(Deep Branch)と順番に枝を出していくので、尺骨神経領域の症状が出た場合、同じ尺骨神経の中でも圧迫されている部分によって、落ちる筋力は変わってきます。

例えば肘部管症候群では、手の内在筋(小指球筋、骨間筋、虫様筋、母指内転筋など)に加えて外在筋(尺側手根屈筋や深指屈筋)の筋力が落ちます。

ギヨン管症候群では手の内在筋(小指球筋、骨間筋、虫様筋、母指内転筋など)の筋力低下のみが見られます。

内在筋と外在筋の違い
・内在筋:手関節以遠の完全に収まっている筋肉。指の外転や内転や、指の屈曲・伸展を微調整により手の精緻な動作や細かい調整に関与する

例)母指球筋群、小指球筋群、骨間筋群、虫様筋群

・外在筋:前腕に起始し、その腱が手や指に伸びて動きを制御する筋肉。手や指の大きな動きや力強い動作を制御する

例)指の屈筋(例:深指屈筋、浅指屈筋)や伸筋(例:総指伸筋、長母指伸筋、短母指伸筋)など

どの筋力が落ちているかを評価することで同じ尺骨神経が障害される病気の中でも、肘部管症候群や、ギヨン管症候群などを鑑別することができます。

尺骨神経が障害される病気

尺骨神経が障害される病気はいくつかあります。

  1. 肘部管症候群
  2. ギヨン管症候群
  3. 外傷(神経断裂など)
  4. 神経腫瘍
  5. ガングリオンによる圧迫 等々

①肘部管症候群②ギヨン管症候群は似た症状が出るので特徴をまとめますまた、第8頚神経が障害される③C8神経根障害のしびれの範囲や症状が似ているので比較しご紹介します。

肘部管症候群ギヨン管症候群C8神経根障害
絞扼部位肘部管内ギヨン管頚椎椎間孔部 等
障害される神経

①筋枝(Muscular Branches) 
②背側枝(Dorsal Cutaneous Branch)
③掌側枝(Palmar Cutaneous Branch)
④浅枝(Superficial Branch)
⑤深枝(Deep Branch)




④浅枝(Superficial Branch)
⑤深枝(Deep Branch)

C8神経根
感覚障害手掌/手背の尺側
小指/環指の掌側,背側
小指と薬指の掌側小指+環指の手掌/手背の尺側
前腕尺側(内側)
Ring finger split( + )( + )( – )
障害される筋小指球筋群(Hypothenar Muscles)
骨間筋(Interossei Muscles)
第3.4虫様筋(3rd and 4th Lumbricals)
母指内転筋(Adductor Pollicis)


尺側手根屈筋(Flexor Carpi Ulnaris)深指屈筋(Flexor Digitorum Profundus) 

小指球筋群(Hypothenar Muscles)
骨間筋(Interossei Muscles)
第3.4虫様筋(3rd and 4th Lumbricals)
母指内転筋(Adductor Pollicis)

指伸筋群(長・短母指伸筋、示指伸筋、総指伸筋)
母指球筋(短母指屈筋/短母指外転筋/母指対立筋)

長母指屈筋
母指内転筋
深指屈筋(すべて)
手根屈筋(橈側/尺側)背側および掌側骨間筋虫様筋(第3および第4)
小指外転筋
Froment Sign
(+)
(母指内転筋麻痺による)
(+)
(母指内転筋麻痺による)
( – )
手の変形鷲手変形(+)
(虫様筋の麻痺による)
鷲手変形(++
(虫様筋の麻痺による)
誘発テストティネル徴候(Tinel’s Sign)
肘屈曲テスト(Elbow Flexion Test)
尺骨神経伸張テスト
ティネル徴候(Tinel’s Sign)
ファレンテスト(Phalen’s Test)
Jackson Test
Spurling Test

まとめ

今回は尺骨神経について、感覚の支配領域、支配筋、尺骨神経障害を呈する病気、鑑別診断について解説させていただきました。

肘部管症候群を初めてとした尺骨神経障害は手のしびれや痛みをきたす疾患の中では比較的メジャーな疾患です。

症状が進行すると麻痺などで手に力が入らず、ADLが下がってしまうので、しびれが出たときは早めに病院かかり、適切な診断をうけるようにしましょう。

末梢神経麻痺頚椎神経根症との鑑別方法について下の記事から!

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