• 2024年9月6日
  • 2024年11月13日

肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん , Cubital Tunnel Syndrome)

かめさん
かめさん

手の小指側がしびれる
手がやせてきた
細かい作業がやりにくくなってきた

今回は中高年の男性に多い肘部管症候群の原因、症状、治療方法、手術適応などについても詳しく解説します。

ゾウ先生
ゾウ先生

 肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん , Cubital Tunnel Syndrome)は、肘の内側を通る尺骨神経が肘部管という肘の内側(小指側)にあるトンネル構造の部分で圧迫されることによって起こる末梢神経の障害です。

 この尺骨神経が肘部管で圧迫されることで、手や指に痛み、しびれ(小指や薬指)、または力が入らないなどの症状が現れます。

手の神経

 手には主に①正中神経橈骨神経尺骨神経 の3つの神経が首から腕を通って走っていますが、肘部管症候群はその中の尺骨神経が圧迫される病気です。

 神経は筋肉に命令をする運動神経、触られている感覚などを伝える感覚神経にわかれます。肘部管症候群では圧迫によって、尺骨神経運動神経感覚神経の両方が障害されるので、運動神経障害(筋力低下)と感覚神経障害(しびれや感覚異常)の両方が起こります。

尺骨神経の働き

尺骨神経の走行

 肘部管症候群の原因となる神経である尺骨神経は、尺骨神経は、頚髄のC8とT1の神経根から起こり、腕神経叢の内側束から分岐します。

頭から首、肩、上腕を伝って指先まで神経がのびていきますが、運動感覚を支配する神経の枝を出しながら指先まで伸びていきます。

首に近いところから順番に

  • 筋枝(Muscular Branches) 
  • 背側枝(Dorsal Cutaneous Branch)
  • 掌側枝(Palmar Cutaneous Branch)
  • 浅枝(Superficial Branch)
  • 深枝(Deep Branch)

と枝分かれしていきます。

やまだカイロプラクティック院・鍼灸院 ホームページより引用

と枝分かれしていきます。肘部管症候群では、尺骨神経の最初の枝分かれである①筋枝(Muscular Branches)が出る前に圧迫されるので、①-⑤の尺骨神経の枝のすべてが障害されます。症状としても、枝分かれした神経の働きに対応した症状が出ます。

下記の記事で尺骨神経について詳しく解説しています。

尺骨神経(しゃっこつしんけい、Ulnar Nerve)

尺骨神経の感覚

 尺骨神経は①手の甲・手のひら側両方の、小指と薬指の半分(小指側)の感覚を脳に伝える働きがあります。そのため、肘部管症候群では小指―薬指の半分のしびれがでます

尺骨神経の運動

 尺骨神経は、内在筋(手の平や手の骨の間にある筋肉)外在筋(腕から手首や指まで伸びる筋肉)の両方を支配する神経ですが、肘部管症候群で尺骨神経が圧迫されると、主に小指を動かす筋肉の筋力低下などが出現します。また、手の細かい作業をするのに重要な筋肉の筋力が落ちるので、ものをつまむ、文字を書くなどがしずらくなります。

肘部管症候群で落ちる筋力

  • 小指を
    • ①外に開く(小指外転筋)
    • ②第3関節(MP関節)を曲げる(短小指屈筋)
    • ③親指と対立する(小指対立筋)
  • 親指を人差し指にくっつける(母指内転筋)
  • 人差し指ー薬指を開閉する動き(骨間筋)
  • 手首を曲げる(尺側手根屈筋)
  • 小指と薬指を曲げる(深指屈筋)

 肘部管症候群では手の骨の間の筋肉(内在筋)がやせ、わしの手のようになることから、鷲手といわれる特徴的な手の形になります。

鷲手

下の記事で尺骨神経の障害が起こる他の病気や、肘部管症候群と似たしびれが出るギヨン管症候群について書いているので、良ければご確認ください。(かなりマニアックな内容です🏋️)

手のしびれはどこから?

尺骨神経(しゃっこつしんけい、Ulnar Nerve)

肘部管症候群の症状

 肘部管症候群になると、特徴的な症状が出ます。これらが複数当てはまれば肘部管症候群の可能性が高くなります。

小指から薬指の半分のしびれや感覚低下がある

  • 握力が落ちる
  • 細かい作業がしずらくなる
  • 小指の付け根の筋肉(小指指球筋)が萎縮する
  • 小指の開閉がしにくくなる
  • 肘を曲げ続ける作業ができない

肘部管症候群の初期は指先のしびれ(小指ー薬指半分)から出て、進行すると筋力低下や筋肉の萎縮が起こってきます。

ゾウ先生
ゾウ先生

肘部管症候群はどんな人に多い?

 肘部管症候群は以下のようなひとに多いです。

  • 中高年の男性 : 長年の重労働や肘の使いすぎなどが原因で起こります。
  • 肘を頻繁に曲げる人: 使い痛みによる炎症で起こります。長時間のコンピュータ作業や車の運転が多い人、電気工事士、楽器演奏者(特にギタリストやピアニスト)、建設作業員、アスリートに多いとされます。
  • 繰り返し肘に圧力をかける人 : デスクワークなどで肘への刺激で
  • 関節リウマチ糖尿病などの持病がある人 : 神経そのものへのダメージや滑膜炎による圧迫で起こりやすくなります。
  • 外傷で肘を怪我したことがある人: 過去の骨折(子供のころの上腕骨外側顆骨折後の外反肘)や肘の脱臼による変形などで尺骨神経の症状がでやすくなります。

外反肘になると、肘の内側を通る尺骨神経が引き延ばさることよって、尺骨神経が固定されている肘部管で神経の圧迫がかかりやすくなってしまいます。

肘部管症候群の所見

 肘部管症候群の特徴が当てはまる人で、肘部管症候群を疑った場合などに検査します。

身体所見

  • ①ティネル徴候(Tinel sign) : 肘部管の上(肘の内側)を軽く叩くと、小指-環指半分に沿ってしびれや痛みが生じれば陽性 
  • ② Elbow Flexion Test: 肘を最大限に曲げて手首を反る(背屈)と小指-環指半分のしびれが出る又は増悪すれば陽性
  • Ring Finger Split Sign : 薬指の感覚は2つの神経(正中神経:薬指の親指側 と 尺骨神経:薬指の小指側)によって支配されているため、薬指(ring finger)の感覚やしびれが左右で異なれば陽性
  • 小指球筋の萎縮 : 小指の付け根の筋肉が萎縮し、小指の外転(外に開く力)などが落ちる。
  • 鷲手: 骨間筋が萎縮することで、鷲の手ようになることから鷲手とよばれる
  • Froment Sign:親指を内側に閉じる筋力(母指内転筋)が落ちるため紙などを挟めなくなる。

 上記のうち、複数当てはまれば肘部管症候群の可能性が高まります。

肘部管症候群の検査

検査では主にしたの四つの検査を行い、重症度や原因を検索します。

  • 神経伝導検査(Nerve Conduction Studies, NCS)
  • 超音波検査
  • レントゲン/CT検査
  • MRI検査

①神経伝導検査(Nerve Conduction Studies, NCS)

 肘部管症候群の診断や重症度を評価するために行われる一般的な検査で、電極を皮膚に貼り付け、神経に微弱な電気刺激を与えてその反応を測定します。肘部管の手前から電気を流し、肘部管を出た後の電気伝導の時間や振幅を検査します。

神経伝導検査の所見

  • 神経伝導速度(Nerve Conduction Velocity, NCV) 電気信号が神経を通って伝わる速度を計測し、伝導速度が低下している場合、肘部管内での神経圧迫や損傷が疑われます。
  • 遠位潜時(Distal Latency)神経に刺激を与えた後、応答が現れるまでの時間です。肘部管症候群では、尺骨神経の遠位潜時が延長することが多いです
  • CMAP(Compound Muscle Action Potential) 電気刺激によって引き起こされる筋肉の反応を記録したものです。CMAPの振幅が低下している場合、尺骨神経が損傷されている可能性があります。
  • SNAP(Sensory Nerve Action Potential)感覚神経の反応を記録します。尺骨神経の感覚神経の応答が低下していると、肘部管症候群により感覚神経が影響を受けている可能性があります。

肘部管症候群など、神経の圧迫がある場合

  • 神経の電気伝導速度が落ちる(伝導速度が50m/S以下)
  • 神経の信号伝達量が落ちる(CMAPやSMAPの振幅(Amplitude)が5mV以下)

などの変化起きてきます。神経伝導速度や振幅は個人差があるので、問題の無い方の手(健側)や他の正常な神経と比較を行い評価します。

②超音波検査

 超音波検査(エコー検査)は非侵的に、尺骨神経やその周囲の組織の状態をリアルタイムで観察でき、神経の圧迫の程度から肘部管症候群の診断にも用いられるようになってきています。また、尺骨神経は肘の曲げ伸ばしによる亜脱臼(本来の神経の位置からずれる)により神経の症状がでる場合もありますが、脱臼の有無の確認もリアルタイムで確認できます。肘部管症候群のエコー所見としては以下のようなものがあります。

肘部管症候群における尺骨神経の超音波所見

検査所見

  • 尺骨神経の肥厚(腫大)や狭窄 肘部管で尺骨神経が狭窄されると、慢性的な圧迫や炎症により神神経が腫れ、神経の横断面積が大きくなります逆に狭窄部位では断面積は小さくなります。(上の図)
  • 尺骨神経の変位 肘を曲げたときに、尺骨神経が本来の位置から逸脱(亜脱臼:subluxation)がないか確認します。
  • 尺骨神経のエコー輝度の低下 肘部管症候群では、神経の浮腫により神経内のエコー輝度が低下し、内部構造が不明瞭になることがあります。

MRI検査

 MRI検査は高い解像度で軟部組織を描出できため、尺骨神経の肥厚(腫脹)神経の炎症神経の亜脱臼骨や腱の肥厚やガングリオンなどによるの神経の圧迫の有無など肘部管症候群の原因の特定や診断に利用されます。

④レントゲン / CT検査

 骨の異常や変形が関与が疑われる場合、具体的には肘部管の変形や骨棘の有無などを確認します。肘部管撮影というレントゲンの取り方が有用です。

肘部管撮影

肘部管症候群の治療方法

 肘部管症候群の治療には保存療法手術療法があります。症例の重症度や患者さんの状況に応じて治療法を選択します。

保存療法

 症状や筋力低下、検査所見から軽度ー中程度の肘部管症候群の方にまず行う治療です。

  • 手関節の安静と固定 エルボースプリント(肘関節サポーター)を装着します。肘の曲げ伸ばしによる神経の炎症や圧迫、尺骨神経の亜脱臼を防ぎ、症状の悪化を防ぎます。
  • リハビリ/理学療法 肘や前腕のストレッチや筋力強化運動や、神経滑走運動(nerve gliding exercises)を行います。
  • 鎮痛剤の内服 痛みやを抑えるためにNSAID(ロキソニンなど)や神経障害性疼痛(しびれなどの痛み)に有効なリリカなどを用います。
  • ステロイド注射 肘部管内にステロイドを注射することで、圧迫の原因となる滑膜の炎症や痛みを抑えます。

手術療法

 保存加療をおこなっても症状が改善しない場合や、神経圧迫が重度の場合などに手術が行われます。

手術が必要になる場合

  • 保存的治療が効果を示さない場合 しびれや痛みが数ヶ月間持続し、装具(スプリント)、ステロイド注射、物理療法、内服治療などで改善が見られない
  • 重度の神経圧迫が認められる場合
    1. 神経伝導速度検査(NCS)や筋電図(EMG)で、尺骨神経の伝導速度の低下や伝導ブロック、筋萎縮がある
    2. 握力低下、物を頻繁に落とす、ボタンをかける動作ができないなど、日常生活に支障をきたすほどの症状がある
  • 筋肉の萎縮が見られる場合 筋萎縮は、神経障害が進行し神経が回復不能な損傷がある
  • 強い感覚障害(しびれや痛み)などが持続する場合
    1. しびれや痛みが慢性化し、しびれが頻繁に発生する
    2. 手の感覚が低下(感覚の鈍さ、指の先がうまく感じられないなど)が出現している
  • 生活の質が著しく低下している場合 夜間の症状などで睡眠の妨げとなっているなど

他にも総合的に判断されて手術適応になることもあります。

 上腕骨遠位端骨折などの肘周囲の骨折や肘の脱臼などによる内出血や腫れの影響で尺骨神経が急激に圧迫される場合があります。重篤な症状が急速に進行する場合、骨折や脱臼の手術と同時に、早急な手術が必要になる場合もあります。

肘部管症候群の手術方法

 肘部管症候群の手術方法には主に3種類あります。

  1. 単純除圧術
  2. 神経前方移動術
  3. 腱移行術

単純除圧神経前方移動術尺骨神経の圧迫をとることで、症状の改善を図る手術方法です。

一方で、腱移行術は、重症の肘部管症候群で、単純除圧や神経移行術では筋力の改善が困難な筋力低下が強い場合に、他の腱をつなぎ合わせることで機能の改善をはかる方法です。

それぞれにメリットデメリットがあります。

①単純除圧術

 尺骨神経が肘部管で圧迫されている場合、その圧迫を解除することが主な目的です。神経を移動させるのではなく、周囲の組織(Struthers’ Arcade(上腕筋と内側筋間中隔の間の筋膜性アーチ)、滑車上肘靭帯、尺側手根屈筋の尺骨頭と上腕頭を結ぶ繊維性靭帯であるOsborne 靭帯)を切開することで、圧迫を取り除きます。

  • 利点
    • 比較的シンプルで、侵襲が少ない
    • 神経を肘部管から移動させないため、神経が自然な位置に保てる
  • 欠点
    • 尺骨神経の亜脱臼が残ることがある。
    • 尺骨神経の脱臼や外反肘がある症例には対応しずらい。
    • 圧迫の解除が不十分になる可能性がある

 肘部管症候群に対する単純除圧術は圧迫や骨棘が比較的軽度な症例や、尺骨神経の亜脱臼を伴わない場合などに適応されます。

②尺骨神経前方移動術 

 尺骨神経を神経を肘部管から肘の前方または他の安全な位置に移動させることで、圧迫源から解放する手法です。上腕骨顆上骨折に対する手術などと併用するなど、幅広い症例に適応できます。代表的な手術方法としてはEaton法などがあげられます。

  • 利点
    • 適応の広さ 神経の亜脱臼や再手術、外反肘など幅広い症例に使用できる。
    • 尺骨神経の圧迫を完全に開放できる
  • 欠点
    • 手術時間 尺骨神経の圧迫から完全に開放したうえで、神経の走行を変える必要があるため、術時間が長くなる
    • 侵襲が増える 皮膚の切開の長さが大きくなる傾向がある
    • 術後合併症 移動させた神経がその場で不安定になったり、別の組織で神経の圧迫が起こることがある

単純除圧術神経移動術の両方とも手術成績はそれほど変わらないため、担当Drが慣れている方法や症例によって選択されます。

ゾウ先生
ゾウ先生

③腱移行術

 重症の肘部管症候群で手や腕の筋力低下や麻痺が顕著になった場合に適応されることが多い手術法です。肘部管症候群が重度の場合、尺骨神経の長期的な圧迫により、手や腕の筋肉が萎縮してしまいます。筋委縮が強いと、神経の圧迫をとっても筋力が回復せず、元々の機能を回復することが難しくなることがあります。腱移行術は、手や指の機能を部分的にでも回復させ、日常生活での動作を改善するために行われます。

肘部管症候群で問題となる筋力低下としては母指の内転(短母指内転筋)と示指の外転(第一骨間筋)筋力の低下による、Pinch動作(ものをつまむ動作)ができにくくなることが挙げられます。

母指内転再建としては短橈側手根伸筋腱(ECRB腱)と移植腱を用いるSmith法、浅指屈筋(FDS)を持ちいるEdgerton法、示指外転再建としては長母指外転筋腱(APL)と移植腱を用いるNeviaser法などがあります。移行した腱が新しい機能を果たせるようにするために、根気よくリハビリテーションを行う必要になります。

まとめ

今回は肘部管症候群の検査方法や所見、治療方法のメリットデメリットについて解説させていただきました。肘部管症候群を放置していると筋肉の萎縮がすすみ、日常生活の手の動作に支障がでることも多くあります。早めに診断をうけて、治療するようにしましょう。

下に関連記事がありますので、もっと詳しく知りたい人は下のリンクからご確認ください!

尺骨神経(しゃっこつしんけい、Ulnar Nerve)

手のしびれはどこから?

都島整形外科クリニック(仮称) 準備中 ホームページ