- 2024年8月28日
- 2024年9月17日
手のしびれはどこから?
手のしびれが来る原因はさまざまあります。
- 正中神経障害
- 尺骨神経障害
- 橈骨神経障害
- C5-C8神経根症(頚椎症性神経根症や椎間板ヘルニアによるもの)
- 頚椎症性脊髄症
- 胸郭出口症候群
- 脳梗塞
- アルコール性神経障害
- 糖尿病性神経障害
- 神経内科疾患 等々・・・
しびれが出ている原因によって治療法が全く異なります。今回は手の主な3つの神経(正中神経・尺骨神経・橈骨神経)の障害と鑑別することが難しい第6-8神経根障害の鑑別点についてお話します。
ちなみに、頚髄が頚椎から神経が出る位置(頚椎椎間孔部)で神経が圧迫される病気を神経根症と呼びます。頚椎の変形(頚椎症性神経根症)によるものや、頚椎椎間板ヘルニアで飛び出した椎間板によって神経が圧迫される場合などがあります。
目次
神経の起源
手には主に①正中神経②橈骨神経③尺骨神経 の3つの神経が首から腕を通って走っていますが、3つの神経の起源は、すべて腕神経叢(Brachial Plexus)から生じます。腕神経叢は、脊髄神経の前枝から構成され、頸神経5~8および胸神経1((主にC5-T1)が頚椎の神経孔部を出た後に合流したものを言います。
上の表でもわかる通り、①正中神経②橈骨神経③尺骨神経のもとは頸神経(C5-8)と胸神経(T1)を起源としているので、神経根の障害と末梢神経(①正中神経②橈骨神経③尺骨神経)の障害で同じような症状がでることがあるため、区別する必要があります。手のしびれがでる神経根としては第6/7/8神経根があります。
手の神経支配
下の図は各神経根の支配領域と末梢神経(①正中神経②橈骨神経③尺骨神経)の支配領域をならべたものなのですが、しびれや感覚障害が出る場所が比較的似ていることがわかります。
例えば、
「中指のしびれ」という症状の場合、正中神経の障害とC7神経根の障害
「小指のしびれ」という症状の場合、尺骨神経障害とC8神経根の障害
を考えないといけません。
末梢神経とC6-8 神経根の感覚障害やしびれの分布は以下の通りです。
末梢神経(①正中神経②橈骨神経③尺骨神経)
橈骨神経 | 正中神経 | 尺骨神経 | |
起源 | C5-T1 | C5-T1 | C8-T1 |
支配領域 | 母指ー環指の 橈側半分の背側 | ・母指ー環指の 橈側半分の掌側 ・示指/中指先端の背側 | 小指と環指尺側の 掌側+背側 |
第6-8神経根
C6神経根 | C7神経根 | C8神経根 | |
支配領域 | 前腕の橈側(外側) 母指 | 手掌および手背の中央部 示指、中指 | 前腕尺側(内側) 小指・環指 |
神経根の支配領域は
親(母指)はろく(C6)でなし、子(小指)はパー(C8)と覚えましょう!
神経根障害と末梢神経障害の鑑別
神経根障害と末梢神経障害の鑑別の方法としては、もちろん診察所見(①誘発試験:ジャクソンテスト(Jackson test)、スパーリングテスト(Spurling’s test)、腱反射、筋力低下の範囲)や検査所見(MRIや神経伝導検査、筋電図など)などで総合的に判断して鑑別していきます。
神経根障害と末梢神経障害の大まかな鑑別法
手の同じようなしびれがある場合に、神経根から来ているものか、末梢神経から来ているものかを鑑別するポイントがいくつかあります。
①手関節より近位にしびれがあるか
- 手関節より遠位のしびれのみ⇒末梢神経障害
- 手関節より近位のしびれもある⇒神経根障害
②腱反射の異常がないか
- 腱反射正常⇒末梢神経障害
- 腱反射異常⇒神経根障害
もちろん、他の特徴や診察所見と照らし合わせて障害部位を特定していきますが、覚えておいて損はないとおもいます。
それでは具体的に、神経根障害と末梢神経障害でしびれや感覚障害の範囲が似ている
- 橈骨神経とC6神経根
- 正中神経とC7神経根
- 尺骨神経とC8神経根
についてまとめていこうと思います。
※鑑別ポイントは太字で表示
※筋力低下は高位麻痺を想定
①橈骨神経麻痺とC6神経根障害
橈骨神経麻痺 | C6神経根障害 | |
しびれの範囲 | 母指ー環指の橈側半分の背側および手背 | 母指掌側+背側 前腕背側 |
しびれの程度 | 比較的少ないことが多い(運動神経の障害がメイン) | 強い |
筋力低下する筋 | 上腕三頭筋 指伸筋(総指伸筋、小指伸筋、示指伸筋、長母指伸筋、短母指伸筋) 腕橈骨筋 手関節伸展筋群(長・短橈側手根伸筋、尺側手根伸筋) 回外筋 | 上腕二頭筋 腕橈骨筋 手関節伸展筋群(長・短橈側手根伸筋) 回外筋 |
腱反射 | 変化なし | 上腕二頭筋腱反射と腕橈骨筋反射減弱/消失 |
特徴的な所見 | Drop Hand (高位麻痺) Drop Finger(後骨間神経麻痺) | Drop Hand やDrop Fingerは多根障害(C678)時のみ |
原因 | 上腕骨骨幹部骨折 Saturday Night Palsy 等 | 頚椎症性神経根症 頚椎症性脊髄症 頚椎椎間板ヘルニア 等 |
橈骨神経麻痺では主に伸展筋力(肘、手、指)全般の筋力低下があります。
②正中神経麻痺とC7神経根障害
正中神経麻痺 | C7神経根障害 | |
しびれの範囲 | 母指-環指橈側(親指側) 手掌がメイン | 中指掌側+背側 前腕背側のしびれ |
しびれの程度 | 同程度 | 同程度 |
筋支配 | 円回内筋/方形回内筋 橈側手根屈筋 長掌筋 指屈筋群(浅指屈筋/ 第2,3深指屈筋/長母指屈筋) 母指球筋 | 円回内筋 腕橈骨筋 手根屈筋(橈側/尺側) 上腕三頭筋 手関節伸展筋(尺側手根伸筋) 指伸筋群(長・短母指伸筋、示指伸筋、総指伸筋) |
腱反射 | 変化なし | 上腕三頭筋反射の減弱/消失 |
特徴的な所見 | 猿手(手根管症候群) Tear drop sign(前骨間神経麻痺) 祝祷(しゅくとう)肢位(回内筋症候群) | |
代表的な原因 | 手根管症候群 前骨間神経症候群 回内筋症候群 等 | 頚椎症性神経根症 頚椎症性脊髄症 頚椎椎間板ヘルニア 等 |
正中神経麻痺では主に屈曲筋力(手、指)と回内筋の筋力低下がでますが、C7神経根障害では肘、指、手関節の伸展の筋力低下も出ます。
正中神経麻痺については以下の記事で詳しく解説しています。
③尺骨神経とC8神経根
尺骨神経麻痺 | C8神経根障害 | |
しびれの範囲 | 小指+環指尺側(小指側) | 小指+環指尺側(小指側) 前腕尺側(内側) |
しびれの程度 | 同程度 | 同程度 |
筋支配 | 母指内転筋 深指屈筋(第3.4) 尺側手根屈筋 背側および掌側骨間筋 虫様筋(第3および第4) 小指外転筋 | 指伸筋群(長・短母指伸筋、示指伸筋、総指伸筋) 母指球筋(短母指屈筋/短母指外転筋/母指対立筋) 長母指屈筋 母指内転筋 深指屈筋(すべて) 手根屈筋(橈側/尺側) 背側および掌側骨間筋 虫様筋(第3および第4) 小指外転筋 |
腱反射 | 変化なし | 変化なし |
特徴的な所見 | Ring finger split 陽性 Claw Hand(鷲手) | Ring finger split 陰性 |
代表的な原因 | 肘部管症候群 ギヨン管症候群 等 | 頚椎症性神経根症 頚椎症性脊髄症 頚椎椎間板ヘルニア 等 |
C8神経根障害では、尺骨神経麻痺+母指球筋と指伸筋群の筋力低下が出現します。
まとめ
今回は末梢神経障害と神経根障害の見分け方について解説しました。