- 2024年8月28日
- 2024年8月30日
正中神経(Median Nerve)
正中神経(せいちゅうしんけい、Median Nerve)は、上肢(腕)における主要な神経の一つであり、感覚と運動の両方にかかわっています。正中神経が障害される病気の中に、手首の手根管内で圧迫されることにより生じる手根管症候群(Carpal Tunnel Syndrome, CTS)などがあります。
今回は手の神経の中の正中神経を中心に解説します。
手の神経支配
手には主に①正中神経②橈骨神経③尺骨神経 の3つの神経が首から腕を通って走っており、それぞれ手の感覚や動きに関わる重要な神経です。
手の感覚はこれら3つの神経によって脳に伝えられますが、繊細な作業をするのに必要な手は、部位によって細かく神経支配が分かれています。
- 正中神経(Median Nerve)(C5-T1)
- 母指ー環指橈側半分の掌側
- 示指中指先端の背側
- 橈骨神経(Radial Nerve)(C5-T1)
- 母指ー環指橈側半分の背側
- 尺骨神経(Ulnar Nerve)(C8-T1)
- 小指と環指尺側ーの掌側+背側
正中神経の働き
正中神経の走行
正中神経は、頸髄の第5頸神経根(C5)から第1胸神経根(T1)までの腕神経叢(Brachial Plexus)を起源として、そこから外側束(C5-C7)と内側束(C8-T1)が合流し、神経の束となって正中神経を構成します。
正中神経は腕の上部から手の指先に至るまでの間に、運動と感覚を支配する神経の枝を出しながら指先まで伸びていきます。近位から順番に
- ①筋枝(運動枝
- ②前骨間神経
- ③掌枝(感覚枝)
- ④母指球筋枝
- ⑤指神経(感覚枝)
と枝分かれしていきます。
正中神経の感覚
正中神経に分布する手の感覚は、下二つの神経によって支配されています。
- ③正中神経掌側枝:手根管の外側を通る感覚神経。母指球付近の感覚を支配する
- ⑤指神経:手根管を通り、正中神経の末端まで分布し、母指ー環指橈側(親指側)までの感覚を支配する
手根管症候群では正中神経掌側枝は圧迫されないので、母指球付近の感覚は正常です。
正中神経の運動
正中神経が支配する筋肉による動きを簡単にまとめると、
- 手関節回内(方形回内筋、円回内筋)
- 手関節屈曲(橈側手根屈筋)
- 示指、中指のDIP関節の屈曲(第2,3深指屈筋)
- 親指の対立、屈曲、外転
の動きを担う神経です。具体的には正中神経の運動神経は以下のような筋肉を支配し、筋肉に命令をします。
- ①正中神経筋枝(運動枝)
- 円回内筋 (Pronator Teres) 前腕の回内
- 橈側手根屈筋 (Flexor Carpi Radialis) 手関節撓屈での屈曲
- 長掌筋 (Palmaris Longus) 手首の屈曲と掌腱膜の緊張
- 浅指屈筋 (Flexor Digitorum Superficialis) 第2〜5指のPIP関節の屈曲
- ②前骨間神経
- 第2,3深指屈筋 (Flexor Digitorum Profundus) 第2〜3指のDIPの屈曲。(第4・5指の深指屈筋は尺骨神経支配)
- 方形回内筋 (Pronator Quadratus) 前腕の回内
- 長母指屈筋 (Flexor Pollicis Longus) 親指IP関節の屈曲
- ④母指球筋枝
- 母指球筋
- 短母指外転筋 (Abductor Pollicis Brevis) 親指の外転
- 短母指屈筋 (Flexor Pollicis Brevis) 親指の屈曲
- 母指対立筋 (Opponens Pollicis) 親指を対立(他の指と向き合わせる動作)。
- 第1・第2虫様筋 (Lumbricals 1 and 2) 第2,3指の基節骨の屈曲
- 母指球筋
前述のとおり正中神経は①筋枝(運動枝)②前骨間神経③掌枝(感覚枝)④母指球筋枝⑤指神経(感覚枝)と順番に枝を出していくので、正中神経領域の症状が出た場合、同じ正中神経の中でも圧迫されている部分によって、落ちる筋力は変わってきます。
例えば手根管症候群では、母指球筋枝が支配する筋肉(母指球筋(短母指外転筋 、短母指屈筋 、母指対立筋)、第1・第2虫様筋 )の筋力が落ちます。
一方、正中神経の分岐である前骨間神経の麻痺では、母指球筋の萎縮や筋力低下は見られず、示指中指母指の第一関節の屈曲制限が出てきます。
どの筋力が落ちているかを評価することで同じ正中神経が障害される病気の中でも、手根管症候群や、前骨間神経麻痺や、回内筋症候群などを鑑別することができます。
正中神経が障害される病気
正中神経が障害される病気はいくつかあります。
- 手根管症候群(Carpal Tunnel Syndrome)
- 前骨間神経麻痺
- 回内筋症候群
- 外傷(神経断裂など)
- 神経腫瘍
- ガングリオンによる圧迫 等々
①手根管症候群②前骨間神経麻痺 ③回内筋症候群はたびたび鑑別が必要になる場合があるので、特徴をまとめます。
手根管症候群 | 前骨間神経麻痺 | 回内筋症候群 | |
絞扼部位 | 手根管内 | 円回内筋、浅指屈筋 | 円回内筋、浅指屈筋 |
神経症状 | 母指球筋枝 指神経(感覚枝) の支配領域 | 前骨間神経 の支配領域 | 手根管症候群 + 前骨間神経麻痺 +α |
感覚障害 | 母指ー環指半分(橈側) ※母指球部の感覚障害は(ー) | なし ※前骨間神経は 純粋な運動神経であるため | 母指ー環指半分(橈側) 母指球部 |
Ring finger split | ( + ) | ( – ) ※前骨間神経は 純粋な運動神経であるため | ( + ) |
障害される筋 | 母指球筋 ・短母指外転筋 ・短母指屈筋 ・母指対立筋 第1・第2虫様筋 | 第2,3深指屈筋 方形回内筋 長母指屈筋 | 母指球筋 + 第2,3深指屈筋 方形回内筋 長母指屈筋 + 浅指屈筋 + (橈側手根屈筋) (長掌筋) (円回内筋) |
誘発テスト | ファレンテスト(Phalens Test) | 回内筋圧迫テスト(Pronator Compression Test) 回内ストレステスト(Pronator Teres Syndrome Test) | |
感覚障害 | 母指ー環指半分(橈側) ※母指球部の感覚障害は(ー) | なし ※前骨間神経は 純粋な運動神経であるため | 母指ー環指半分(橈側) 母指球部 |
正中神経麻痺と頚椎神経根症との鑑別方法について下の記事から!
まとめ
今回は正中神経について、感覚の支配領域、支配筋、正中神経障害を呈する病気、鑑別診断について解説させていただきました。
手根管症候群を初めてとした正中神経障害は手のしびれや痛みをきたす疾患の中では比較的メジャーな疾患です。
症状が進行すると麻痺などで手に力が入らず、ADLが下がってしまうので、しびれが出たときは早めに病院かかり、適切な診断をうけるようにしましょう。