- 2024年10月1日
- 2024年11月13日
へバーデン結節・ブシャール結節
「最近、指の動きがわるくなってきた」
「指を動かすと痛い」
「指の節がゴツゴツして、変形してきた」
中高年女性に多い手の痛み。その中でも今回はへバーデン結節とブシャール結節について解説します。
目次
へバーデン結節・ブシャール結節とは
ヘバーデン結節とは、指の末端の関節(指の第一関節、DIP関節)にできる骨のこぶや変形のことをいいます。「ヘバーデン結節」という名称の由来は、19世紀のイギリスの医師、ウィリアム・ヘバーデン(William Heberden, 1710-1801)にちなんでいます。
似た名前のブシャール結節は、指の中間関節(第二関節、PIP関節)にできる骨のこぶや変形を指します。ブシャール結節(Bouchard’s nodes)の名前の由来は、フランスの病理学者であるシャール・ブシャール(Charles-Joseph Bouchard, 1837-1915)にちなんでいます。
第1関節の変形を ⇒ヘバーデン結節
第2関節の変形を ⇒ブシャール結節
と言います。
へバーデン結節・ブシャール結節ともに、変形性関節症の一種で、加齢や遺伝的な要因によって関節軟骨がすり減り、関節が変形していくことで発生します。へバーデン結節とブシャール結節は、同時に起こることも多く中高年女性の手の痛みの原因でも比較的多い疾患です。
多くの場合は、第 1 関節だけ または 第 1 関節⇒第 2 関節の順番で変形してきます。第2関節だけが腫れている場合などはリウマチなどを考える必要があります。
へバーデン結節・ブシャール結節の症状
へバーデン結節・ブシャール結節の代表的な症状には以下のようなものがあります。
- 指の関節が腫れる
- 指の関節の痛みがある
- 指のこわばり、動かしにくさを感じる
- 変形する
- 指の関節の動きが悪くなる(可動域制限)
- 症状が出ては治まるという波があり徐々に変形していく
- 炎症や赤みが出る
- 水ぶくれができる(粘液嚢腫 , Mucus Cyst)
上記のうちの症状が1つでも当てはまれば、へバーデン結節・ブシャール結節の可能性があります。どの指でも発症する可能性がありますが、特に、親指、示指、中指、薬指に多く見られます。
へバーデン結節・ブシャール結節の原因は?
へバーデン結節・ブシャール結節の原因になるものとしては以下のようなものがあります。
- 加齢
- 年齢が上がるにつれて関節の軟骨が徐々に摩耗しおこります。
- 遺伝的要因
- 家族にヘバーデン結節を持つ人がいる場合リスクが高まります
- 関節の過度な使用やストレス
- 指をよく使う仕事や作業をしている人は、指の関節に過剰な負荷がかかり、軟骨がすり減りやすくなります。
- 外傷やケガ
- 指の関節の過去のケガ(突き指など)が原因で、軟骨が損傷を受けることでおこります
- ホルモンバランスの変化
- 50歳前後になると、年齢ととも関節や骨の健康をサポートする女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が低下し、関節の軟骨が傷つきやすくなります
へバーデン結節・ブシャール結節の診断/検査方法
へバーデン結節・ブシャール結節の診断にあたって、視診や触診、レントゲン検査がメインになります。MRIなどは基本必要ありませんが、他の病気を疑う時などは適宜検査を追加をします。
以下のような特徴から診断します。
- 問診 変形の経過、家族歴、日常生活への影響
- 視診 指の関節の変形の程度の確認
- 触診 関節の可動域、圧痛の有無
- X線検査 へバーデン結節やブシャール結節を診断したり、他の病気(関節リウマチなど)と鑑別する上でもっとも重要な検査
へバーデン結節、ブシャール結節のX線検査の特徴
へバーデン結節では下のような関節の変形をメインとした変化がレントゲンで出てきます
- 骨棘 : 関節周囲に骨の新生物(骨棘)が形成される
- 関節裂隙の狭小化 : 関節の軟骨がすり減るため、レントゲン上で関節のすきま(関節裂隙)が狭くなります。
- 骨硬化 : 関節周辺の骨が硬化し、レントゲン画像で白く見えることがあります。
へバーデン結節の特徴的なレントゲン変化として、gull-wing appearance:手の関節の変形が飛ぶ鳥のガンのように見える状態 やSawtooth appearance:骨の変形がノコギリの歯のように見える状態 があれば、へバーデン結節の可能性が高まります。
へバーデン結節、ブシャール結節の診断自体にはそれほど影響ありませんが、他の病気を除外するために、エコー検査やMRI、採血検査を追加することもあります。
へバーデン結節・ブシャール結節の鑑別
へバーデン結節・ブシャール結節は第一関節、第二関節の変形によるものですが、指の腫れや痛みを引き起こすような他の疾患との区別が重要です。へバーデン結節・ブシャール結節自体は長年の経過で進む病気ですが、他の病気であれば急な治療が必要になることもあります。
鑑別疾患
- 関節リウマチ
- 乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)
- 感染性関節炎(かんせんせいかんせつえん)
- デュピュイトラン拘縮
- リウマチ性多発筋痛症
- RS3PE症候群(アールエススリーピーイーしょうこうぐん)
- 掌蹠膿疱症性骨関節炎(しょうせきのうほうしょうせいせつえん)
- 炎症性腸疾患にともなう関節炎
- 全身性エリテマトーデスなどの膠原病
など、全身の関節が障害される疾患などがあげられます。
どれも早期の治療開始が、その後の経過が大きくかわるということがいわれています。リウマチや筋骨格疾患の研究、治療、教育を促進する国際的な専門組織である欧州リウマチ学会、EULAR(European League Against Rheumatism)は、これらの関節炎に対して、発症から3ヶ月以内に治療を開始することを推奨しています。いずれにしろ、他の病気ではないかを調べて、早期発見、早期治療することが重要です。
次に特にへバーデン結節・ブシャール結節との鑑別が重要になる、関節リウマチについてみていきましょう。関節リウマチは指や手などの小関節が障害されやすいという特徴があるため、へバーデン結節やブシャール結節などの変形によるものと見逃されしまうこともたびたびあります。
へバーデン結節 ブシャール結節 | 関節リウマチ | |
関節の場所 | 指の第一(DIP),第二(PIP)関節 | 指の第二(PIP),第三(MP)関節 ※第一関節は少ない |
症状の出る順番 | 第一(DIP)→第二(PIP)が多い | 様々な関節に起こる (左右対称性の関節炎が特徴) |
レントゲンの特徴 | 変形がメイン ・関節裂隙の狭小化 ・骨硬化、骨棘など | 骨びらん(骨の浸食)がメイン |
採血 | 変化なし | 炎症反応⇧ 抗CCP抗体やリウマチ因子が陽性になる |
治療 | 保存加療が中心 場合によっては手術も | 薬物加療(抗リウマチ剤や生物学的製剤)が中心 |
例えば下の写真はどちらかがどちらかわかりますか?
正解は、左がへバーデン結節、右が関節リウマチの手です。なかなか一般の方や、専門ではない科の人からすると難しいと思います。
へバーデン結節・ブシャール結節の治療方法
ヘバーデン結節の治療は、症状の軽減や日常生活の改善を目的とし、症状の重さに応じて様々な方法が取られます。治療は主に、痛みの管理、関節の機能維持、進行の遅延に焦点を当てます。再生医療等、近年新たな治療法の研究もすすんではきていますが、一度すすんでしまった変形を根本的に改善される治療はまだ無いのが現状です。順番に紹介します。
保存加療
- 安静
- 手の使いすぎによる炎症を抑えます。ただし、仕事や家事などで安静を保つことが難しい場合も多いです。
- リハビリ
- 超音波や温熱療法や冷却療法、電気、理学療法士や作業療法士によるストレッチなどを行います。指の関節を適度に動かすことは、可動域を保ち、関節の硬直を防ぐために重要です。即効性は期待できませんが、再発予防や慢性化の防止に効果があります。
- 痛み止めなどの内服
- ロキソニンなどのNSAIDやアセトアミノフェンなどで痛みを抑えます。
- ステロイド注射
- 炎症や痛みが強い場合、関節に直接ステロイドを注射します。長期的な効果は限定的ですが、即効性があります。
手術加療
保存療法が効果を示さず、痛みや機能障害が強い場合は、外科的治療を行います。ただし、外科手術は最終手段として選択されます。
- 関節形成術:関節の変形部分を修正する手術で、関節の形をできるだけ元に戻します。痛みの軽減や機能の向上を目的としますが、効果は個人差があります。
- 関節固定術:関節を完全に固定して動かないようにする手術です。変形が重度で痛みが強い、またはこれにより痛みがなくなる一方、指の可動性は失われます。
- 人工関節置換術:変形した関節を、人工関節で置き換える手術です。指の第一関節(DIP関節)対して行われることは稀で、DIP関節は小さく、人工関節の耐久性や人工関節の長期的な劣化や脱臼のリスクや機能的改善が限定的であるためです。
人工関節手術は変形性関節症で理想的ではありますが、Heberden結節には治療成績が安定せず、まだまだ発展段階です。
まとめ
へバーデン結節・ブシャール結節は中高年の女性にかなり多い病気です。ただの変形と思っていたものの中に、積極的な治療が必要になるものもあります。普段は無意識に手を使っていますが、変形が進行すると「掴む」「握る」「物を持ち上げる」といった基本的な動作が困難になり、仕事や家事に大きな影響を及ぼすことになります。
症状が改善しない時や、悪化するような場合には、早めに整形外科を受診するようにしましょう