- 2024年9月19日
- 2024年9月27日
橈骨神経(とうこつしんけい、Radial Nerve)
橈骨神経(とうこつしんけい、Radial Nerve)は、上肢(腕)における主要な神経の一つであり、感覚と運動の両方にかかわっています。
橈骨神経が障害される病気の中には、肘よりも近位の障害される橈骨神経高位麻痺や回外筋やFrohseのアーケードでの狭窄による後骨間神経麻痺(Posterior interosseous nerve Palsy)などがあります。
今回は手の主要な神経である橈骨神経を中心に解説します。
目次
手の神経支配
手には主に①正中神経②橈骨神経③尺骨神経 の3つの神経が首から腕を通って走っており、それぞれ手の感覚や動きに関わる重要な神経です。
手の感覚はこれら3つの神経によって脳に伝えられますが、繊細な作業をするのに必要な手は、部位によって細かく神経支配が分かれています。
- 正中神経(Median Nerve)(C5-T1)
- 母指ー環指橈側半分の掌側
- 示指中指先端の背側
- 橈骨神経(Radial Nerve)(C5-T1)
- 母指ー環指橈側半分の背側
- 尺骨神経(Ulnar Nerve)(C8-T1)
- 小指と環指尺側ーの掌側+背側
橈骨神経の働き
橈骨神経の走行
橈骨神経は、脊髄の第5〜第8頚椎(C5〜C8)と第1胸椎(T1)の脊髄神経根から生じ、これらの神経根が合流し、橈骨神経を形成します。
橈骨神経は腕の上部から手の指先に至るまでの間に、運動と感覚を支配する神経の枝を出しながら指先まで伸びていきます。近位から順番に
- ①上腕三頭筋枝
- ②長・短尺側手根伸筋への枝
- ③腕橈骨筋への枝
- ④後上腕皮神経(Posterior Cutaneous Nerve of the Arm)
- ⑤下外側皮神経(Inferior Lateral Cutaneous Nerve of the Arm)
- ⑥後前腕皮神経(Posterior Cutaneous Nerve of the Forearm)
- ➆橈骨神経浅枝(感覚枝)(Superficial Branch of the Radial Nerve)
- ⑧橈骨神経深枝(運動枝):後骨間神経
と枝分かれしていきます。
腕神経叢で分岐した橈骨神経は、上腕、肘、前腕、手関節を通り指先にいたります。
橈骨神経の感覚
橈骨神経に分布する手の感覚は、下3つの神経によって支配されています。
- ④後上腕皮神経(Posterior Cutaneous Nerve of the Arm):上腕の背側(後面)
- ⑤下外側皮神経(Inferior Lateral Cutaneous Nerve of the Arm):上腕の外側下部
- ⑥後前腕皮神経(Posterior Cutaneous Nerve of the Forearm):前腕の背側(後面
- ➆橈骨神経浅枝(感覚枝)(Superficial Branch of the Radial Nerve):手背(母指-中指)
前腕遠位外側には橈側皮静脈があり、手首の周りでは比較的触れたり目視できやすいため、採血や点滴のルート確保で用いられることもありますが、橈骨神経浅枝と近接しており、神経は浅いところを通っているので、基本的にはこの部分での注射は避けることが勧められています。
注射や点滴後の手のしびれでたまに整形外科を受診されることがあるので、手首の周りで点滴や注射をする際は注意しましょう。
ちなみに、後骨間神経麻痺では、⑧橈骨神経深枝(運動枝)のみが障害され、④-⑥の感覚神経は障害されないため、感覚障害やしびれがでないことは重要ポイントになります。
橈骨神経の運動
橈骨神経は以下のような筋肉を支配し、筋肉に命令をします。
- ①上腕三頭筋枝
- 上腕三頭筋:肘関節伸展
- ②長・短尺側手根伸筋への枝
- 長・短尺側手根伸筋:手関節伸展
- ③腕橈骨筋への枝
- 腕橈骨筋:肘関節屈曲
- ⑧橈骨神経深枝(運動枝):後骨間神経
- 総指伸筋:示指-小指のMP関節伸展
- 長母指伸筋:母指のIP関節伸展
- 短母指伸筋:母指のMP関節伸展
- 示指伸筋:示指の伸展
- 長母指外転筋:
- 尺側手根伸筋:手関節の伸展
- 回外筋:
前述のとおり橈骨神経は①上腕三頭筋枝②長・短尺側手根伸筋への枝③腕橈骨筋への枝④後上腕皮神経⑤下外側皮神経⑥後前腕皮神経➆橈骨神経浅枝(感覚枝)⑧橈骨神経深枝(運動枝):後骨間神経と順番に枝を出しており、近位で橈骨神経が障害された場合(橈骨神経高位麻痺の場合)は上腕三頭筋や長・短尺側手根伸筋の筋力が低下し、肘の進展や手関節の背屈が困難になる場合もあります。
橈骨神経が障害される病気
橈骨神経が障害される病気はいくつかありますが、橈骨神経のどのレベルで障害されているかによって症状が異なります。主には橈骨神経高位麻痺と後骨間神経麻痺があります。
橈骨神経高位麻痺の原因
- 上腕骨骨幹部骨折:上腕骨骨幹部の遠位1/3の部分で橈骨神経は上腕骨に巻き付くように走行しているため、この部分の骨折で麻痺が生じやすくなります。
- 肩関節脱臼・脱臼骨折:腋窩で橈骨神経が橈骨神経が引っ張られることで損傷を受ける
- 松葉杖麻痺(腋窩での圧迫):松葉杖を使用する際、適切な使い方をせずに長時間脇で体重を支えると、腋窩で橈骨神経が圧迫され生じる
- サタデーナイトパルシー(Saturday night palsy):長時間、腕が圧迫されることで生じる一過性の麻痺。車椅子などの物や腕枕などで神経が骨との間に挟まれることで起こる。
- 絞扼性神経障害:三頭筋裂孔(大円筋、上腕三頭筋長頭、上腕骨の間)での狭窄
後骨間神経麻痺の原因
- 絞扼性神経障害
- フローシェのアーケード(Arcade of Frohse):回外筋入口部
- 回外筋(浅層と深層)(回外筋症候群)
- 肘関節脱臼・脱臼骨折
- 橈骨頭骨折
他にも神経腫瘍、ガングリオンによる圧迫、ギプスや包帯での圧迫はどの部分でも生じる可能性があります。
回外筋症候群は橈骨神経の後骨間神経麻痺。
回内筋症候群は正中神経の前骨間神経麻痺。と紛らわしいです。
回内筋症候群について復習したい人は下の記事から!
橈骨神経高位麻痺/後骨間神経麻痺/C6神経根障害の鑑別
①橈骨神経高位麻痺②後骨間神経麻痺は似た症状が出るので特徴をまとめます。また、第6頚神経が障害される③C6神経根障害のしびれの範囲や症状が似ているので比較しご紹介します。
橈骨神経高位麻痺 | 後骨間神経麻痺 | C6神経根障害 | |
絞扼部位/原因 | ・上腕骨骨幹部骨折 ・肩関節脱臼・脱臼骨折 ・サタデーナイトパルシー (Saturday night palsy)など | ・絞扼性神経障害 フローシェのアーケード(Arcade of Frohse) 回外筋(回外筋症候群) ・肘関節脱臼・脱臼骨折 ・橈骨頭骨折 など | 頚椎椎間孔部 等 |
障害される神経 | ①上腕三頭筋枝 ②長・短尺側手根伸筋への枝 ③腕橈骨筋への枝 ④後上腕皮神経 ⑤下外側皮神経 ⑥後前腕皮神経 ➆橈骨神経浅枝(感覚枝) ⑧橈骨神経深枝(運動枝):後骨間神経 の内、障害高位より遠位 | ⑧橈骨神経深枝(運動枝):後骨間神経 | C6神経根 |
感覚障害 | 母指ー環指の橈側半分の背側および手背 | ( – ) | 母指掌側+背側 前腕背側 |
障害される筋 | 総指伸筋 長母指伸筋 短母指伸筋 示指伸筋 長母指外転筋 尺側手根伸筋 回外筋 + 障害高位により、 (上腕三頭筋) (長・短橈側手根伸筋) (腕橈骨筋) | 総指伸筋 長母指伸筋 短母指伸筋 示指伸筋 長母指外転筋 尺側手根伸筋 回外筋 | 上腕二頭筋 腕橈骨筋 手関節伸展筋群 (長・短橈側手根伸筋) 回外筋 |
肘の屈曲 | → Or ↓ | → | ↓↓ |
腱反射 | → | → | 腕橈骨筋反射 ↓ |
手の変形 | Drop Hand 手関節伸展× 手指伸展× | Drop Finger 手関節伸展〇(筋力低下あり) 手指伸展× | |
誘発テスト | ティネル徴候(Tinel’s Sign) | ティネル徴候(Tinel’s Sign) 前腕回外テスト(Supination Test) | Jackson Test Spurling Test |
神経の障害される位置によって、感覚や運動の低下の度合いがことなります。このような特徴を理解することで、原因の特定に役立てることが可能です。①橈骨神経高位麻痺と②後骨間神経麻痺の大きな違いの一つである、下垂手と下垂指は鑑別に役立ちます。
・Drop Finger:指の伸展ができなくなるため起こる。尺側手根伸筋の筋力は低下するが、長・短橈側手根伸筋の筋力は残るため、手関節の背屈は可能。後骨間神経麻痺で起こる。
橈骨神経高位麻痺は下垂手(Drop hand)
後骨間神経麻痺は下垂指(Drop Finger)と感覚障害がない
C6神経根障害は前腕外側のシビレと腕橈骨筋反射の低下
が特徴的です。
まとめ
今回は橈骨神経について、感覚の支配領域、支配筋、橈骨神経障害を呈する病気、鑑別診断について解説させていただきました。
症状が進行すると麻痺などで手に力が入らず、ADLが下がってしまうので、しびれが出たときは早めに病院かかり、適切な診断をうけるようにしましょう。
末梢神経麻痺と頚椎神経根症との鑑別方法について下の記事から!